橘ーの「京洗い」
— 価格に込めた、着物への敬意と職人の技
「どうして着物の“丸洗い”は、お店によってこんなに値段が違うの?」
そんなご質問をよくいただきます。
橘ーの「京洗い」は、ただのクリーニングではありません。大切な着物をこれからも安心して着続けていただくための“総合メンテナンス”です。
その価格には、「安全への配慮」と「職人の手間」がしっかり込められています。
1.「京洗い」誕生の背景
— 機械ではできない、職人の判断
戦前、橘ーは紋屋として始まり、やがて着物のお手入れを手がけるようになりました。
当時は着物を解いて洗い張り(水洗い)するか、仕立てたままベンジンで部分的に汚れを落とす生き洗い(いきあらい)が主流でしたが、高度経済成長期になり効率化が求められる中で、ドライクリーニング機械を応用した“機械式の丸洗い”が登場します。
しかし着物は洋服とは違い、金彩・刺繍・絞り・螺細(らでん)といった繊細な装飾や、大島紬や藍染などの染料、表地と裏地の伸縮性など特性が複雑です。機械任せにすれば、型崩れや色落ち、風合いの損失を招くおそれがあります。
「どうすれば、お客様の着物を“安全に、より美しく”よみがえらせられるのか?」
この想いから、機械の利点を活かしつつ、職人の目利きと手仕事を融合させた、橘ー独自の技術「京洗い」が生まれました。
2. 私たちの譲れない想い
橘一が大切にしているのは、効率ではなく“安全”と“丁寧さ”です。
① 安全のための「見えない投資」
ドライクリーニングの溶剤は石油系であるため、消防法により厳格に規制されています。
橘ーは安全を最優先に、名古屋市中区の都心から工業地域へ移転しました。法令に基づく安全設備を整え、行政の許可のもとで運営しています。
お客様の大切な着物を預かる以上、これは私たちの“最低限の責任”です。
② “逆汚染”を防ぐ「溶剤へのこだわり」
「洗ったはずなのに、なんだかスッキリしない」
—— その原因は、使い回された溶剤による“逆汚染”かもしれません。
橘一では、常に新しく透明な、高純度の溶剤を使用することを徹底しています。着物を汚さないために洗う——この当たり前のために、私たちは溶剤の品質管理コストを惜しみません。
③ 橘ーの「京洗い」は、前処理も含めた“丸洗い”
橘ーの「京洗い」は、必ず着物全体を洗い上げることをお約束する、本物の「丸洗い」です。
職人が一点一点の状態を見極め、必要な前処理(部分的なシミ抜き)を手作業で行います。 ドライクリーニング機(ドライワッシャー)は、生地の種類・地色の濃淡・装飾の有無など、汚れの具合だけでなく様々な状態を判断し、きめ細かく使い分けています。機械任せで完了するものではありません。
時間が経っていない軽度な汚れやシーズン中の合間の軽い洗いなど、無駄に丸洗い(=全体のドライクリーニング)をする必要はないとご理解いただいた場合に、かつての生き洗いに近い部分的な処理を行います。
④ 職人の手仕上げで“息吹”を取り戻す
橘ーの仕上げは、着物の構造を知り尽くした職人が、一点一点の状態(表地と裏地の伸縮差まで)を見極め、乾いた高温・高圧の蒸気(ドライスチーム)を操ります。
機械プレスでは生地を押しつぶしてしまい、絞りや刺繍の風合いが失われがちです。生地を押し潰すことなく、内側からシワを“浮かせて”シワを伸ばす、職人による完全手仕上げを貫いています。
- 圧倒的なシワ伸ばし力:高圧の乾いた蒸気が繊維の奥からシワを伸ばし、生地に余計な水分を残さないため、冷めた後の“シワ戻り”がありません。
- 生地を傷めない:圧力で押さえつけないため、デリケートな金彩や刺繍を傷めず、生地が光る“アタリ”も発生しません。
- 風合いの復元:機械仕上げで失われがちな、生地本来の風合いや絞りの凹凸まで蘇らせます。
まとめ:京洗いの価格は、お客様への「品質の誓い」です
橘ーの「京洗い」は、単なるクリーニングではありません。歴史ある着物の変化を見つめ、機械化の限界を知り尽くした私たちがあえて「職人の手仕事」にこだわり抜いた、着物のための総合メンテナンスです。
- お客様の安心を守る「安全への投資」
- 着物本来の美しさを守る「清浄な溶剤」と「本物の丸洗い」
- 着物の息吹を蘇らせる「職人の手間と技術」
私たちが提供するサービスには、着物を大切に扱うための想いと技術が詰まっています。お預かりした一枚を、安全に、そして美しい状態でお返しするために必要な専門的な知識や手間 —— それらすべてが、その対価として価格に表れています。